ついこの間まであれほど暑さに辟易していたように思うのに
とても濃かった道路の影も
カレンダーを捲ると共にどんどん和らいで来ていて
僕が気付かないでいる間に、街はすっかり次の季節を迎えようとしていた。
季節の移ろいに気付けないほどに忙しくしていたわけでは無いと思うけれど
あっという間に秋も通り過ぎようとしている。
年々時間は早く進むようになるのだろうかなんて考えて
いくら何でもそれはどうかと
天気の良いのにも背中を押されて
気に入りの文庫本を一冊手にして散歩に出掛けた。
公園通りの銀杏並木が黄色に光を受け、
太陽は斜めに差し始めて、住宅街から宅配便のトラックが出てくる。
気の早いTVコマーシャルはすっかりお歳暮のシーズン。
きっと街はそろそろ華やかに彩られ始めているのだろう。
カレンダーより一足早く赤や緑で飾られたショッピングモールも
それなりに季節を感じて嫌いではないけれど
是非に足を向けたいものではない。
直接的で積極的な街の季節よりも
のんびりと陽だまりで自然の彩りに目を向けたくて。
ウィークデイには嫌でも多くの人とすれ違うのだから
こうした日曜日ぐらいは人混みは遠慮したいとも思うし
冬一歩手前のこんな暢気な午後の時間を、僕はわりと気に入っている。
ベンチに腰を下ろして缶コーヒーをまずは一口。
暫くはまだ十分に暖かいだろうからと
足を組んで本を開いた。
ゆっくりと活字を追いながら、午後の日差しを甘受する。
広場の方で遊ぶ子供達の声を時折微かに感じながら
僕はそうして時間を過ごす。
不意に何かが視界を横切り、顔を上げれば
少しばかり移動した影の向こうから
風に乗ってか銀杏の黄色が舞い降りてくる。
それを辿って陽光の眩しさに目を細めた。
そのままベンチに背中を預けて空を見る。
秋の終わりかけた空に、ほかりと浮かんだ雲がゆるゆると流れる。
明日からはまた一週間。
まあ、あまり何も変わりなく、それでも足早に毎日は過ぎていくのだろうけれど。
風が捲ったミステリーは
気付けば次の場面に頁を移していた。